櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
今日までの歴史の中で、フェルダン王国特殊部隊が介入し敗北した王国は一つたりとして、存在しない。
だが、今回は。
そう思った。
こちらには世界トップクラスの軍と戦力、加えて、国から集めに集めた大勢の魔法使い達で新しく編成した世界最大の特殊部隊を作り上げた。
対して、相手国は資源だけが取り柄の小さな王国。戦争などの争いを好まないため、経験も実力もないに等しい。
軍隊も小さく、とても国を守ることは出来ないと誰もが思うほど。
ただひとつ恐れたのは、フェルダン王国からの援軍が一人ではなくなること。
一人であれば対策は打てるが、複数になると話は別だ。
一人が介入するだけで勝てた試しがないというのに、二人三人と増えれば手も足も出ない。
だが、たった一つの懸念だったそれは、偵察隊からの知らせで解消された。
今回も、援軍は一人だと。
それが誰かまでは知り得なかったが、その知らせに喜ばずにはいられなかった。
ついにフェルダン王国の精鋭を叩き潰し、歴史に名を残せると。
決戦のその日まで、勝利を掴む為に様々な策を練り、兵士たちは手を抜くことなく訓練に勤しんだ。
そして、決戦の日。
こちらの軍が構える陣地に姿を現したのは、たった一人。
フェルダン王国特殊部隊特有の血のように真っ赤な赤が印象的な部隊服に身を包んだ男。
顔は、目元から下が黒い布で覆われている為伺うことはできない。
その男は一人敵陣に乗り込み、言う。
「悪いが、時間がない。
貴様らが出撃するまで待つと埒があかん」
その男は何故か、口元の黒い布取り、不敵に微笑む。フードの中から除くその顔に、その男を知る者達は人生が終わったかのような絶望の表情を浮かべる。
その恐ろしいほどの気迫に兵士達はぞっと怯え、声も出すことができない。
まるでそれは、魔界を統べる魔王のよう。
「さあ。さっさと終わらせよう」
そして、その言葉と共に地獄を見ることになる。