櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ





それからが早かった。



世界最大の軍勢はたった数分で全滅。



「............っ!!!」



悪夢の瞬間を思い出し、従者の全身を寒気が襲う。



彼も、その戦闘の現場にいたのだ。



魔王を前にし、その恐ろしさに声も出なかった。



「お前が、この軍を率いる者か」



フードも取り、その顔を顕にする。



冷たいのその目と、表情。漆のように艶やかな黒髪。片眼は長い黒髪で隠されている。



無表情、どちらかと言えば呆れた様な表情のこの男からは、魔力が冷気として止めどなく漏れ続ける。



この時点で、戦場に立っていたのはこの二人だけ。



仲間達が倒れた中で、ただ一人残される。



仲間達は皆、呪文と共に男が放つ黒い闇に包まれると同時に苦しみ悶え倒れていった。



「あー......お前が誰でもいい......
お前達の王に伝えろ。こいつらを助けたかったらこちら側に頭でも下げるんだな」



 そう言い残し、その身を翻して戻っていく男。



 体から漏れ出る魔力が、氷点下の冷気を帯び、男の周囲を地獄のように変えていく。



 倒れた何万という人の山の中はその冷気で肌を青白く変色させる。その中を平然と歩いていく姿は、まさに魔界を統べる王《魔王》そのものだった。







 

 忘れたくても忘れることのできないこの出来事は、のちに《魔王の襲来》としてこの国にいつまでも語り継がれることとなる。




 フェルダン王国の脅威と共に――――――――

 



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