櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
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「ちょっと、エンマぁーーー」
『はいっ』
「玉ねぎってどこにある?」
『えっと、確かそれは下の籠の中に』
「うーん......あ!あった、あった!」
穏やかな日が差し込む昼下がり。
エンマは、オロオロとしながらも仕事の手を休め、シェイラの横たわるベッドへと向かう。
ベッドにはシェイラが可笑しそうに苦笑しながら、その様子を見つめていた。
「ハハッ、大変そうだなぁ、エンマ」
その声は明るく、以前よりも力がある。
『......お願いしたものの...まだ慣れません
何だかルミ様に申し訳なくて......』
エンマが狼狽えているのには理由があった。
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ルミとシェイラが再会したのは今から一月程前の事となる。
お互いにもう一度出会えた事を心から喜んだ。
そしてその日から、まだ全然本調子ではないシェイラを思い、全ての王宮内の雑務が終わり空いた時間を使って、影の部屋へやって来るようになったのだ。
初めはシェイラの話相手だったルミ。
あまり自身のことを話したがらないシェイラを思い、ルミは色々なことを話した。
自分は本当はこの世界の住人ではないこと。
この世界にやって来た経緯や、オーリングやノアとの出会い。
王宮にいる理由など。
ルミが、この世界にやってきて経験したり感じたことを少しずつゆっくりと話していった。
穏やかでとても平和な日々は緩やかに過ぎてゆく。
そして次第にシェイラも胸の内を話すようになっていった。
心の内と言っても、その内容はほんの小さな事ばかり。
庭の手入れのポイントや草花の特徴に始まり、王宮内の七不思議や隠し部屋など。
魔法を使えるらしいと言うと、魔法の呪文が書かれた本を渡してくれた。
シェイラは優しく丁寧に字の読み書き、文の作り方などを教えてくれ
そのおかげで、今では少しずつだがその本を読めるようになった。
魔法が使えたわけではないが、初めてこの国の本というものに触れ、読めるようになってきたことを純粋に喜ぶルミ。
その姿を見て、シェイラも心から幸せだと感じる。
そんな日々の中、いつからだろう、ルミがエンマの仕事を手伝うようになったのは。