櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ



 その心からの笑顔に、ルミとエンマは思わず固まってしまう。



 それは男女問わず虜にしてしまう、人懐っこい笑みだった。


 
 ルミは思わず見惚れ



 エンマは数年ぶりに見た主の素の笑顔を凝視する。



 十年近くこの部屋で一人で生きてきたシェイラ。暗い孤独の中で、いつしかその笑顔曇り、その笑顔すらも見せなくなった。



 そのシェイラが、この数か月でここまで笑えるようになった。



 この事実にエンマは打ち震えるほどに喜んでいた。


 
 当のシェイラは余程和食が気に入ったのか、黙々と匙を進めている。



「ルミっ、これは何というんだ?」



 料理を指さしながら興奮気味に尋ねる。



「あ......これは肉じゃがというものです」

「そうなのか!美味しいなぁ、優しい味がする」



 大したものは作っていないというのに、幸せそうに笑うシェイラを、ルミはぼんやりと見つめる。



 そして思う。



 どうして自分は、こんなにも彼に固執するのか。



 どうして彼の傍にいたいと思うのか。



 シェイラと再会し、その日から、どうしても彼の傍にいたくて雑務が終わると毎日のように影の部屋へ足を運んだ。彼の笑顔が見たくて、たいして得意なわけでもないのにたくさん話をした。



 不思議なくらい、彼のことを考えてしまう。



 本当に不思議なのだ。



 関わりだって本当に何もない。



 たまたま、エンマに連れられて会っただけ。



 たまたま、ノアに教えられてもう一度会えただけ。



 それなのに



 どうして、こんなに彼を思うの?



 どうして こんなに......



(胸が苦しくなるの......)




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