櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ



自分でも正体の分からない思いがルミの胸を支配する。



僅かに眉を顰め、無意識のうちに胸を押さえていた。



ふと、それに気づいたシェイラは、心配そうに俯くルミの顔を覗き見る。



「ルミ?どうかしたのか?」



食事の手を休め、気遣わしげにルミへと手を伸ばした。



「平気です。何でもありませんよ」



食事を続けてください、シェイラさん。



そう微笑みながら言うルミを、怪訝に思いながらもシェイラは再び匙を取り、食事を続けた。














ちょうど同じ頃。



王宮内の中庭。



「貴様ら......一体、何者だ!」

「シルベスター国王、危険ですっ!!お下がりください!!!」



その腕の中に妻フランツィスカを抱えたシルベスターと、彼を守るように囲む複数の衛兵たち。



そして、その周りには黒いローブを羽織った者達が続々と現れ、ジリジリと衛兵達に詰め寄っていく。



その姿は、数ヶ月前の王族暗殺未遂事件でシルベスターを狙った犯人と同じ姿だった。



あの時、捕らえた犯人は檻の中で姿を消した。



その理由はもう分かっている。



しかし、この所彼らの動きがなかった為、少し気を抜いていたのかもしれない。



このような状況に陥るとは。



腕の中で気を失い青白い顔をしたフランを見つめ、悔しそうに唇を噛む。



黒いローブの者達は、各々に杖や剣、長槍等の武器を持ち出し衛兵達に向かっていく。



そのままの状態であれば衛兵達が勝つに決まっている。数もそれほど変わらない上、毎日のように訓練を繰り返している衛兵達はそう簡単に負けたりはしない。



そのままの状態であれば、だ。



「ぅわあああ!!」



衛兵達が次々と声を上げて倒れていく。



硬直したように固まって、フランと同じように青白い顔をして気絶していく。



ローブの男たちからは闇の魔力が溢れ出ており、その魔力に当てられたのだろう。



「国王陛下!!一刻も早くお逃げくださいっ!!我々も、いつまでもつかっ......」



一番近くにいた兵士がそう言って、早く逃げるように促す。



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