櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
「ご無事ですか?」
シルベスターの元へと駆け寄り確認する。
当然、彼の腕の中でぐったりとしたフランが目に留まり、
「女王陛下!?」
その首元に手をやり、亡くなってはいないことを確かめる。
「すまん、私の責任だ…」
悔しそうに顔を歪めるシルベスターを見て、オーリングは怒り抑えて話しかける。
その怒りは決してシルベスターに向けたものではない。
「......何かあれば、貴方の分身が私に知らせる筈です。だが、その声が聞こえなかった......貴方も何かされたのでは?」
良く見れば、シルベスターの顔色も随分と悪い。
はははっ、とカラ笑いをした後「流石だなぁ」と言って彼は膝から崩れ落ちた。
呼吸が荒い。今の今まで耐えてきたのだろう。
「っ!!......申し訳、御座いません...!!」
自分の不甲斐なさに、これほどにない怒りを覚える。
王を守れずに
部下たちを守れずに、何が、特殊部隊だ。
「お前達!よく聞けっ!!」
炎の壁で守られている為、今の隙にと怪我をおった仲間たちを避難させよう奮闘する兵士たちに向かって、オーリングは叫ぶ。
「全員、今すぐここから退避!!魔法を使えぬ者が奴らの相手をすることは不可能だ!
直ちに、大広間に王宮内の人間を全員集め、魔導壁を作動させろ!その中から一歩も外に出させるな!」
「しっしかし、この場は......」
オーリングの命令を聞き、尚もこの場を心配する兵士達。
彼らに向かい、オーリングは優しく微笑む。
「安心しろ、私を誰だと思っている」
自慢げなその台詞は、今は何より弱った兵士たちに安心感を与える。
「いいか、大広間には、既に医療班を向かわせている。倒れた者達を直ぐに診てもらえ。
分かったなら急げ!!」
「はっ!!!」
オーリングの号令と共に、すぐさま行動に移す衛兵たち。
いかに、彼がこの王宮内で信頼を得ているかが伺える。
「国王陛下も、早く」
兵士数人が国王の元へと駆け寄り、手をかそうとするが、シルベスターはそれを断る。
「私はいい。それより、フランを頼む......」
懇願するような眼差しのシルベスターに、兵士達は頷きフランツィスカを受け取ると、大広間へと向かって駆けていった。
その後ろ姿を見えなくなるまで、目で追い続けるシルベスターを横目で見るオーリング。
「......貴方は行かないんですか、シルベスター国王」
「ああ、奴らの狙いは私だ。私も共に行けば、彼らを危険に巻き込むことになる......」
フラフラとした足腰で立ち上がるシルベスター。
その様子を伏し目がちに見つめ、申し訳なさそうにオーリングは言う。