櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
オーリングの右手が手早く印を結ぶ。
〈アース〉モーア
それと同時に目の前のローブの男達が次々と足を止め、瞬く間に地面に沈んでいくではないか。
それはまるで、底無し沼にはまったかのように、どんなに足掻いても抜け出すことができずに沈んでゆく。
「凄い......!」
本来この魔法は、これほどの力を発揮しない。
自然に存在するものを操ることは非常に難しいのだ。
自然に存在するものにはそれ自体に自然エネルギーという名の、人が持つものとは異質の魔力が存在している為、人の魔力を持って操ることが難しい。
ましてやオーリングのように元から存在する地面を沼地に変えるなど、普通の魔法使いなら簡単にはできない。
範囲も威力も桁違いのその力に、シルベスターは目を見張る。
〈フローラ〉ヴュルゲン
怒りの表情を浮かべ続けざまに右手で印を結ぶ。
同時に周囲の木々、草花は変化を顕にする。
むくむくと巨大化した根や幹、蔦がまだ沼にはまっていないローブの男達を捕え、ギリギリと縛り上げていく。
次々と意識をなくし、死んだ様に力を失っていく。
意識さえ奪ってしまえば、魔術もへったくれもない。
元々、魔力の本質自体が、オーリングの場合は他の魔法使いと異なるのだ。
呆気なく倒れていく敵と、歴然としたその力の差にシルベスターは、ただ呆然と見つめるばかりだった。