櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
「流石だなぁ、オーリング。圧勝だ」
魔力を持っているシルベスターや、フランでは少しも適わなかった。
そんな敵が今は一瞬で、捕らえられている。
しかし
「いえ......気を抜かないでください。まだ、います」
オーリングはそう言って、まだ先を見据えていた。
そしてその声が、不意にどこからか聞こえてきたのだ。
「おやおや」
不気味な、しわがれた男性の声。
「我が子達、無様にやられおって
勝負にもなっておらぬわなぁ」
淡々と喋るその声は、徐々にオーリング達の元へと近づいていく。
「流石に相手にもならぬか。のお、オーリング殿」
「......誰だ、貴様」
オーリングが問いかけると、ヒヒヒヒッと不気味な笑い声があたりに響く。
声は近くにあっても、その姿は見えない。
その事実がより一層、人の恐怖心を煽る。
「私が誰かなど、どうでも良いこと。
そこの隣の男を殺せば、ここに用はないのだからな
ヒヒッ、さぁ、そなたの相手はしたくない。そこを退いてくだされ、オーリング殿」
そこの隣の男。それは紛れもなくシルベスター。
やはり自分が目的だったのかと青ざめるシルベスターに対し、終始冷静な態度で声の主を探し続けるオーリング。
「お主にとって、その男は守る価値もないであろう?
さあ。早くどいてくだされ!」
一気に、語尾が強くなる。
それでも、オーリングの表情はぴくりとも変わらない。
「守る価値がないからどけ、と?
......確かに、俺にとっては守る価値などない。
だがな、私はフェルダン王国の騎士だ。
己の感情のまま、騎士である誇りを汚すくらいなら、今ここで死んでやる 」
けしてぶれることのない強い意志。
主の為ではなく、自分の誇りのためにオーリングは戦うという。
きっと、オーリングは二度とシルベスターを許すことはない。それだけの傷を追わせたとその自覚を持ってはいても、面と向かって『守る価値はない』と言われれば堪える。
(オーリング......)
瞳を伏せ、己を悔やんだ。