櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
その寸前だった。
「オーリィさんっ!!!」
魔力が乱れ、荒れるこの場に響き渡る澄んだ声。
はっ、と我に帰ったように声の主を探すオーリングの元へ、彼女は駆ける。
「ルミちゃんっ......!?」
そしてその体を受け止めた。
ふわっと、ルミの花のような香りがオーリングの元へと香る。
まるでそれは高ぶったオーリングの心を落ち着かせるように、体中に広がる。
それに合わせて、荒波が一瞬にして凪になる様に、荒れた空も、うねる地面も、元のように収まり始める。
オーリングの心を映すように。
「ルミちゃん......」
こんな状況なのに、そう思いながらも、自分にかかる彼女の重みや暖かさに、胸を詰まらせる。
目をつむり、腕に力を込めて抱き締めた。
その時、気がついた。
「ルミ...ちゃん......?」
彼女の体が、力無くもたれ掛かっている事に。
背中に回した手が、生暖かい何かで濡れていることに。
恐る恐るその手を見つめる。
「............っ!!?」
そこには、赤黒く染まった自分の手があった。
「ルミちゃんっ!しっかりしろっ!ルミちゃん!!」
ぐったりした体を支え、血の気の無い顔を覗く。
そして同時に、視界に入るものに目を疑った。
視界に入ったのは、地面に力なく倒れるシルベスターの姿。
「っくそ!!シルベスター国王っ!!」
ぐったりと倒れてはいるものの、ルミのように血塗れになっている様子はない。
それだけが、唯一の救いだった。
そんなオーリングの様子を嘲るように、笑い声が響いた。
「ヒヒヒヒッ、ヒ~!あ〜愉快!
まさかまたその女に邪魔されるとは思わなかったが、今回はもうその命も手遅れとなることでしょう!!!
残念でしたなぁ!!」
ギリギリと歯を食い縛る、オーリング。
「二人を守りながら、どう闘いますか?
こちらの姿も目に出来ていないと言うのに......
ヒヒヒッ......ねぇ、オーリング殿?」
確かに、今、二人を守りながら、見えぬ敵からの攻撃を防ぐのは至難の業だ。
ルミの冷たい体を抱きしめ、オーリングは一気に魔力を張り詰めさせた。