櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
ふいに、懐かしい匂いがした。
匂いと言っても、ただの匂いではない。
魔法使いが感じる『匂い』とは、魔力のこと。
懐かしい魔力を感じたのだ。
その時はてっきり、数ヶ月ぶりに会ったオーリングのものと思った。
そう思い込もうとしたのかもしれない。
しかし、オーリングのいる戦場に立って、分かってしまった。
信じられなかったが、信じるしかなかった。
目の前の現実を。
「......ル...ミ......?」
無意識のうちに口がその名を呼んだ。
オーリングの腕の中で、力なく横たわるその少女の名を。
「え、......ジンノさん、ルミちゃんのこと知ってるんですか?」
その声に気が付いたのか、オーリングが驚いたように言う。
だが、あまりの衝撃に頭がついていかないのか、オーリングの言葉に反応することは出来なかった。
敵のことを一切忘れ、彼女に近づく。
白髪のように見えたその髪は、近くで見るとわずかに色素の入ったプラチナブラウン。
幼いその表情。
自分の知っているルミではない。
そう思いたいのに、目が離せない。
見れば見るほどに、似ていると感じてしまう。
そんな訳ないのだ。有り得ない。
頭では分かっていても、心が否定する。
「ジンノさん?」
いつもとは全く違う様子のジンノに困惑するオーリング。
黒い革手袋を外して男にしては細く美しい手を伸ばし、浅く呼吸をする彼女の白い頬に触れる。
違う。違う筈なのに
「ルミ......」
サングラスの奥の、見えない瞳から透明な雫が頬を伝った。
彼女と、死んだ『妹』を重ねて。
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