Trick and Love
Trick and Love
ぺたん、ぺたん。
廊下にわたしのスリッパの音。
人がいない校舎はなかなかに響くものだ。
図書委員の仕事は嫌いじゃないけど、クラスにひとりしかいないから委員会の後は少しさみしい。
今日なんてわたしひとりだけ呼び止められたせいで、他クラスの人さえいない。
開けっ放しだった教室の扉をくぐり自分の席に向かおうとして、ぴたり。
足を止める。
「瑞希(みずき)……?」
そこにはわたしの彼氏が寝ていた。
すぅすぅと気持ちよさそうな寝息。
長いまつげにわたしよりずっときめ細やかな肌。
起きていて綺麗なら、寝てても綺麗で。
うわ、もう。ムカつく。
「ちょっと、瑞希、なにしてるの?
おーい、瑞希くーん」
ゆさゆさと体を揺らしても起きない。
……わたし帰れないんですけど。
ていっとチョップをひとつお見舞いする。
髪がふわふわでこっそりドキッとした。
< 1 / 6 >