本当に欲しかったのは……
本当に欲しかったのは……
「こんぱんわ、お早いお帰りで……」

 お決まりの別れ際のキスをした後、余韻に浸りながら彼氏の車を見送る私に突然、聞き覚えのある声が降りかかる。

 声の先を辿り見上げると真っ暗な隣の窓からよく知った顔がこちらを見下ろしていた。 

 彼は一体どこから見ていたんだろう。

「盗み見何て悪趣味」

 知り合いに、ましてや物心がつく前から知っている相手に彼氏との、あんな場面を見られるなんて恥ずかしいなんて言葉で片付けられない。

「別に盗み見していたわけじゃなくて俺がたまたま外を見ていたら、そっちが後から来て勝手におっぱじめただけ」

「おっぱじめたって!?ちょっ、変な言い方しないでよ!まるで私たちがココで……」

 喉元まで出かかった言葉に顔が熱くなる。

「変なって……。一体何を想像したんだ?」

 暗がりで表情までは読み取れないが、声色だけであいつが今どんな顔で笑っているのかくらい私にはいとも簡単に分かってしまうから余計にムカつく。

「もういい!おやすみ」

「ごめん。謝るからさ久しぶりに、もうちょっとだけ話さない?」

 言い捨てるように言い家に入ろうとした私の足をアイツの言葉が止める。

「でも……」

「ちょっとだけ。寒いし、ご近所の目もあるから部屋に来いよ」

 本当はあんなことまで言われ散々からかわれた後に迷うなんて有りえない事なのかもしれない。

 でもどんな形であっても久しぶりにアイツと話せたことが本当は嬉しかった私にとって思いもよらない誘いの言葉だった。

 私は言われるがまま昔のように勝手知ったるあいつの家に足を踏み入れてしまった。

 階段を上り一番奥の部屋のドアを開けると、真っ暗な部屋で月明かりをバックに私を待ち望むかのようにアイツが立っていた。

 本能的に、これ以上足を踏み入れてはいけないと思ったが「ドア閉めろよ、両親が起きるだろ?」なんて言われたもんだから反射的にドアを閉めてしまった。

 ドアが閉まるのと同時にアイツがジワリジワリと私との距離を詰めだす。

「やっぱり帰るね」

 危険を察し慌てて部屋を出ようとするがアイツに腕を掴まれ引き寄せられる。

「私、明日結婚するの」

 息がかかるほど近い距離にドキドキしながら私は何とか声を振り絞るが

「知ってるよ?だからその前に……」

 不敵な笑みと共にキスが落とされてしまった。
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