私の好きな人 私を好きな人
その時、

『その子、俺の連れなんで』


声がして、顔をあげると、いつの間に来たのか、蒼太先輩がすぐ横に立っていた。


サラリーマンたちは、
『なんだ、男がいたのかよ…』
とぶつぶつ言いながら、去っていく。


こ、怖かった…。


私はホッとして、泣きそうになる。


蒼太先輩はそんな私をチラッと見ると、何も言わずにまた歩きだす。


お礼を言いそびれた私は、相変わらずスタスタ歩く蒼太先輩の背中を追いかけたけど、その時、

あれっ?

と思った。


さっきよりも、歩くスピードがずいぶんと遅い。


私は蒼太先輩の背中をジッと見つめていた。


私のマンションの前につくと、蒼太先輩は、
『じゃ』
と短く言って、くるりと私に背を向けた。


その背中に向かって、

『あ、あの、さっきはありがとうございました。』

私がそう言うと、蒼太先輩はそのまま振り返らず、ただ右手を上げて、ヒラヒラと振った。


その姿を見送って、蒼太先輩が見えなくなった頃…


『蒼太先輩、よく笑う人、あっち系』

私はそれを、

『蒼太先輩、よく笑う人。





私の好きな人』



そう書き換えていた。

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