私の好きな人 私を好きな人
一歩踏み出せないまま、夏休みが終わり、季節はいつの間にか、秋になっていた。


『ここ、自分の部屋より落ち着くんですけど』


私はスタッフルームのパイプ椅子に座って、店長とコンビニのお弁当をつつく。


店長は、事務机に向かって、私に買いにいかせたコンビニ弁当を黙々と食べている。


今日は土曜日で大学が休みだったので、私は朝からお昼過ぎまでのシフトに入って、そのあと店長とこうしてお弁当を食べている。


店長はお弁当を食べ終えると、ゴミをそのまま横に押しやってアイスコーヒーをイッキ飲みする。


店長の事務机の上は、本店からのファックスや、シフト表、漫画などでいつもぐちゃぐちゃだ。


私は、お弁当を食べ終えると、自分と店長のゴミを袋にまとめて、ゴミ箱に入れる。


するとさっきまで、眠たそうにあくびをしていた店長が、急に私を見て、

『お前、杉下に似てきたな』

と言う。



『えっ…!?私が杉下さんに…?』

そんな訳ない。
私はまだあんなかっこよく仕事出来ないし、あんなにひまわりみたいな笑顔で接客もできてない。


『仕事はまだまだやけどな』


うっ…。


『なんちゅうかな、雰囲気とかな。杉下も、ここ自分の部屋より落ち着く言うてたしな』


そうなんだ…。

私はなんだか嬉しくなる。

いつか…
『私も杉下さんみたいになれますかね?』

私が聞くと、

『なれるんちゃうかー』

店長はのびをしながらそう言うと、ぶらりとお店の方へ出ていった。



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