私の好きな人 私を好きな人
私と蒼太先輩に変化が訪れたのは、それからしばらく経った月のきれいな夜だった。



私たちは飲み会の帰り、いつものように少し離れて黙って歩いていた。


今日は月がきれいだなぁ。
中秋の名月というやつかな。

私はそんなことを考えながら、月を見上げて歩いていた。
こんなきれいな月の夜に、蒼太先輩と歩いていることが、嬉しくてたまらなかった。


『実家、どこ?』


それはあまりに突然すぎて、私は一瞬、自分に聞かれたのだと分からなかった。


思わず後ろを振り返る。
私の他に、誰かいて、その人に聞いたのかと思ったのだ。


そこには、誰もいない。

私は人差し指を自分に向け、『私?』という意味を込めて首をかしげる。

蒼太先輩は、そんな私を見て、少しあきれたようにうなづく。

『当たり前だろ、お前の他に誰がいるんだよ』
とでも言いたげ。


そっか、今日の飲み会の時、夏休みにした合宿の話で盛り上がった。
私は実家に帰ってて行けなかったけど。
その時に、一馬先輩が、
『紗耶香ちゃん、来年は実家に帰る日があらかじめ分かってたら、日程調節するからね』
って言ったのを聞いてたからかもしれない。

< 39 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop