私の好きな人 私を好きな人
うそ…
うそでしょ…


私は走って、ハナを探す。


見覚えのある後ろ姿が見えた。


『ハナっ!!』


私が呼ぶと、ハナはゆっくり振り返った。


『新谷さん』

『ど…どうして辞めるの?』

『あー、受験勉強が…』

『附属の大学行くって言ってたじゃん!!』


ハナは私をじっと見つめると、ため息をひとつついて、話し出した。


『新谷さん、俺さ、前に店の前でダンスしてたって言いましたよね』

私はハナが何を言いたいのかわからず、ただ頷く。

『その時ね、新谷さん…あ、その時は、新人さんだったけど、見たことがあったんです。なんか、めちゃくちゃ一生懸命働いてた』

『……』

『それからしばらくたって、店にコーヒー飲みにきたときに、すげーかっこいいスタッフがいて…それが新谷さんだった。何回か来てるうちに、俺も一緒に働きたいなって…』



そうか…
私はこの子の『杉下さん』だったんだ…。


『最初は、ただ仕事が出来てかっこいい人だな、って思ってた。ただ、それだけだった。でも…、気がつけば』

『…』

『好きになってた』


私はただ、黙って聞いていた。
何も言うことが見つからず、ただハナを見ていた。



『何回も好きだ、って言ったのに、本気にしてくれないんだもん。新谷さん、鈍すぎでしょ』


ううん、違う。
私は気づいてた、本当は。
ハナが寂しい顔をする時、
私に対する真っ直ぐな思いに、
本当は…。


『新谷さん、好きな人がいるでしょ。いつもその人が心の中にいるでしょ。…俺いつも思ってたよ。「俺のものになればいいのに」って。駅まで送るとき、このままどっか連れていこうかな、っていつも思ってた。』

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