薫子さんと主任の恋愛事情
「八木沢さん、良い人ね。おばちゃん気に入っちゃったわ。でも……」
おばちゃんはそこまで言うと、少しだけ顔を曇らせる。
「でも?」
「でもね、会社の人との恋愛って大変って聞くよ。薫子ちゃん、大丈夫?」
「あ……」
おばちゃんに言われて、初めて気づく。
社内恋愛──
前に美容院で見た雑誌の、特集記事を読んだことがある。
『社内恋愛のイロハ』と銘打って、働く女性百人にアンケートを実施。その結果や女性たちの思い思いの言葉が載せられていた。
その時は現実社会での恋愛なんて無縁で、読んでいてピンとこなかったけれど。
社内恋愛には、メリット・デメリットがあるということ。良いこともあれば悪いこともある、だから社内恋愛には注意しようということが書いてあった。
どんな恋愛も自分ひとりじゃなく相手がいるということ。だからどんな恋愛だって大変なんだと思うけれど、ことさら社内恋愛は気を使わないといけないらしい。
大登さんはそのあたり、どう思っているんだろう。
「薫子ちゃん?」
ひとり自分の世界に入り込んでいた私に、おばちゃんが名前を呼んだ。
「あっ、ごめんなさい。社内恋愛っていうか恋愛も初めてだからなんとも言えないけど、たぶん大丈夫じゃないかな。大登さんにも立場っていうものがあるし、私のことは秘密にしておくと思うし」
まだ始まったばかりの関係を、大登さん自ら公にするとは思えない。