薫子さんと主任の恋愛事情

「工場の誰に用事?」

大登さんのちょっと怒ったような声に振り返ると、その顔も訝しげで。

「こ、こ、工場長?」

咄嗟に答えたら、疑問形になったしまった。

「工場長は今日から出張だけど?」

「あ……」

そうでした。確か東京で開催するイベントの打ち合わせとかで、上層部の面々と三日間留守にするって言っていたような。

失敗した……。

じゃあ次は誰にしようかと考えていると、繋がれた手をキュッと引っ張られる。もちろん私の身体も一緒に引かれ、気づけば大登さんの腕の中。

「ひ、ひ、ひ、ひ……」

大登さん、離してください。そう言いたいのに、頭の中がパニック状態。それ以上言葉を発することができなくて、大登さんの腕の中でジタバタするばかり。

「嘘ついた罰な」

私をからかうように耳元でそう言うと、腕の戒めを解いてくれた。

「罰ってなんですか? 罰ってっ!!」

大登さんから距離を取り怒りを露わにすると、さすがの大登さんもおとなしくなる。



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