薫子さんと主任の恋愛事情
「バカ! そうじゃなくて、夜の生活」
「あ……そっちの、あっちですか。それは、そのぉ……」
私の顔は麻衣さんにガッチリ掴まれたまま、動かすことができない。あっちの意味がわかって恥ずかしさから目を伏せると、麻衣さんはため息をついた。
「その様子じゃ、まだみたいね」
「はい」
私の返事に麻衣さんは手を離すと、姉貴感たっぷりに足を組んでふんぞり返る。
「薫子が拒んでるの?」
「え? 私は拒んでないです。と言うか、拒む必要がないって感じで」
「どういう意味?」
「八木沢主任、キス以上は求めてこないです」
「はぁ!? マジメに?」
コクンと頷くと、麻衣さんは盛大にため息をつく。
私いま、ため息をつかれるようなことを言った? 全然わからない。
でも麻衣さんはまた呆れた顔をすると、私にグイッと顔を寄せた。
「薫子いい、よく聞いて。三ヶ月も付き合って身体を求められないなんて、薫子に女の魅力が足りないからじゃない? 颯はどうしてるの?」
「颯ですか? 今もほら、ここにいますよ」
デスクの二段目の引き出しを開けてみせる。そこには相変わらず、爽やかな笑顔を向ける颯がいた。