薫子さんと主任の恋愛事情
「ない、ないわ……」
「ないって、何がないんですか?」
首を傾げる私をよそに麻衣さんは引き出しから颯を持ち出すと、それを自分のポケットの中に入れてしまう。
「ちょ、ちょっと麻衣さん! それ、返して下さい!」
「ダメ、これはしばらく没収します。颯が近くにいるから、八木沢主任に抱いてもらえないのよ!」
「だ、抱いてって……」
そんなこと、大きな声で言わなくてもいいのに。
他の女子社員がいないか周りを見て、誰も居ないことにホッとする。
「麻衣さん、ホントに勘弁して下さい。それがないと私……」
「薫子は、颯じゃなくて大登でしょ。こんなの早く忘れて、八木沢主任のことをもっと大切にしなきゃ」
「でも大登さん、颯のことは忘れなくてもいいって言ってくれたし」
「そんな言葉、本気なわけないでしょ。いくら相手が二次元でも、薫子の心の中にいる男は、自分だけがいいって思うのが普通だと思うけど」
確かに……。
いくら大登さんがいいといったからって、そんな言葉を真に受けるなんてどうかしてる。なんでそんなこと、もっと早くに気づかなかったんだろう。