薫子さんと主任の恋愛事情
乙女ゲームの中でならうまくいっていた恋愛も、現実世界だと勝手が違ってうまくいかない。大登さんと一緒にいる時にハッピーエンドになるような選択肢を選びたいのに、攻略本もないから自信を持って前に進めない。
ホントの恋が簡単じゃないことくらいわかっていたけれど、まさかここまで難しいとは。
恋愛は頭で考えるものじゃない、心で感じるもの──
なんて聞いたことがあるけれど、そんなことできるくらいならきっと二次元のキャラに恋なんてしていない。
「心で感じる……」
「ん? 何?」
ソファーに座りDVDを観ていた大登さんが、隣に座っている私の顔を覗き込む。
「え? あ、なんでもないです」
麻衣さんの前でもそうだったけれど、どうも私は心の声が漏れているみたい。
しかもどれだけの時間、ボーッとひとり考え事をしていたんだろう。
一緒に観ていたDVDもその内容はほとんど覚えていないし、大登さんが淹れてくれたコーヒーも冷めてしまっていた。
「今日の薫子、ちょっとおかしくないか?」
大登さんの言葉に、慌てて飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。
「お、おかしくなんて……ないです」
普通に言ったつもりが、もうすでにおかしくて。大登さんを上目遣いに見れば、呆れ顔で笑っていた。