薫子さんと主任の恋愛事情
男兄弟の中で育った私は、実は男っぽい性格。家族とは何でもズケズケ言い合ってきたからか、少々言葉遣いがよろしくない。
そんなことがバレないようにと、人と話をするのは極力避けてきたのだけど。いつしか二次元にどっぷりハマり、今では妄想の中でしかほとんど話すことはない。
今日はうんと頑張っているほう。
なのに八木沢主任と言ったら、私の言葉をのらりくらりとかわしては悪戯に話を伸ばしている。
「八木沢主任の名前が大登だってことは知ってます、同じ会社で働いてるんですから。そんなことより条件……」
「今晩、俺と付き合え」
私の言葉を切るように、八木沢主任が口を挟む。
「はぁ?」
俺と付き合え……。
付き合えって、どこに? 私が八木沢主任と? 私はただの事務員。そんな一般職の私が、なんで夜に付き合わされないといけないの?
開いた口が塞がらないとは、まさしく今がその状態なんだと思う。
ポカンと開きっぱなしの口、眉間には皺。八木沢主任のわけのわからない条件に、顔がどんどんおかしくなっていく。
「西垣、こんなところに皺寄せるなよ」
八木沢主任はそう言うと、長い腕を伸ばして人差し指で眉間をなぞる。
「……なっ、何するんですか!?」
「何って、皺を伸ばしてるんだ」
文句は言ったものの驚いて動けなくなった私の眉間を、八木沢主任は今もまだ伸ばしていた。