薫子さんと主任の恋愛事情
「隠したって無駄。自分の気持ちは言葉にしないと、ちゃんと相手に伝わらないぞ」
「あ……」
それは三ヶ月前社員食堂で、大登さんが私に掛けてくれた言葉。
大登さんはいつも『思ったことは口出せ』が口癖で、隠し事を嫌う。そのほうがいいことは私もわかってはいるけれど、だからと言って何でもかんでも話せばいいものでもない。
特に今思っていることは、口が裂けても言えないし聞けない。
世の中の付き合っている人たちって、何でも言えたりしてるんだろうか。相手のことが好きだからこそ、隠したいことや秘密にしておきたいことがあってもおかしくないと思うんだけど。
「まあ無理にとは言わないけど、薫子は口数が少ないからな。なんなら態度で表してくれてもいいけど?」
右眉だけを上げて微笑む顔は、ちょっと意地悪で。
態度ってどうやって?……そう言おうとした唇は、近づいてきた大登さんの唇で塞がれてしまい言えなくなる。でもそれはチュッという音とともにすぐ離れて、至近距離で私を見つめる。
「こんな風に」
「私、キスして欲しいって思ったんじゃないって言いましたよ」
少しだけ口をとがらせて怒ってみせる。
「そうなのか? じゃあ俺がしたかったからキスした」
そう言って余裕の笑みを見せる大登さんは大人で、子供な私は“やっぱりホントの恋は難しい”と思い知らされた。