薫子さんと主任の恋愛事情
大登さんとは泊まりさえしなかったものの、昨晩も一緒に過ごした。食事中の様子も特に変わりはなかったし、帰る時までいつもどおりの大登さんだったと思う。ここ数日間のことを思い返してみても、何かあったとは思えないけれど。
ここはしばらく様子見ってことで──
手に持っていたジュースを握りしめ踵を返すと、遠目に大登さんの姿が目に入る。でも大登さんはひとりじゃなくて、隣に女性らしき姿が見えた。
大登さんがあんなところで、女性とふたりきり……。
胸がざわつくのを押さえながら本社の建物に向かうため脚を進め、少し大きくなったふたりの姿に目を凝らす。
「あ、坂下さんだ」
大登さんの隣りにいたのは工場棟で働く出荷担当主任の坂下さんで、ほっと胸をなでおろす。
彼女は既婚者で、確か保育園に通う息子さんもいたはず。大登さんとは同じ主任同士だし、何かと関連する仕事も多いから、ああやって話していてもなんの問題もない。
そうわかっているのに、心のざわつきが一向に治まらないのは何故だろう。
「わかった。さっき柴田さんが、余計なこと言ったから」
だからちょっと気になるだけ。きっと、それだけのこと。
「さて、私も仕事に戻らないと」
クルッと曲がれ右をして走りだすと、ざわつく気持ちを消すかのように、そのまま一気に階段を駆け上がった。