薫子さんと主任の恋愛事情

大登さんのことは信じているし、疑うつもりもない。主任同士で信頼している相手ならば、離婚の相談のひとつやふたつするかもしれない。さっき見た光景だって、あんな場所だろうと本当に仕事の話をしていたのかもしれない。

大登さん本人が言っているわけじゃないんだから、そんな話は信用しなければいいだけのことなのに、聞き流すことができない自分がいた。

「ま、まあその話も、どこまで本当かわからないし。この話はひとまず終わり」

麻衣さんの言葉で、騒がしかった室内が静まる。「じゃあ、また新しい情報が入ったら来るね」と小宮さんが経理部を出ると、麻衣さんが申し訳なさそうな顔をして私に近づいた。

「薫子、ごめん。調子に乗りすぎた」

麻衣さんのシュンとした顔を初めて見て、おもわず笑みがこぼれる。

「麻衣さん、そんな顔しないでください。私は大丈夫ですから。それに麻衣さんの言った通り、本当のところはわからないし」

「じゃあ八木沢主任に聞いてみる?」

「う~ん、それもどうかと。もし何かあれば八木沢主任の方から話してくれると思うので、それまでは何も聞かなかったことにします」

笑顔でそう返すと、麻衣さんは「わかった」と言って仕事に戻った。



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