薫子さんと主任の恋愛事情

状況がうまく飲み込めない。

ここは会社の食堂で、今は大勢の人が集まっている昼休憩の時間。近くに人はいないから、誰かに見られてることはないけれど。たった一人運搬部の柴田さんが、目の前で繰り広げられている私と八木沢主任の光景を楽しそうに見ていた。

これって私、からかわれてる? それとも新手のイジメ?

どちらにしろ、颯が見ている前でこんなこと、今すぐやめてもらいたい。

颯にだって触れられたことないのに、なんで初めてが八木沢主任なわけ? 上司だからといって、勝手なことしてもいいっていうの? そんなの許せるはずないじゃない!

「……触るな」

怒りが混じった言葉は、相手が八木沢主任だということも忘れて、心の中から飛び出す。

「え?」

普段の私からは想像もできない地獄の底から這い上がってきたような声に、八木沢主任の顔色が変わる。

「勝手に触るなって言ってんのっ!」

私の眉間に触れている手を右手で振り払い、そのままその手を八木沢主任の左頬めがけて振り落とす……はずだった。

パシッ!!

私の右手はいい音を立てて、八木沢主任の手に捕らえられる。



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