薫子さんと主任の恋愛事情
「そう、そんなことがあったの」
おばちゃんは湯のみのお茶をすすると、小さくため息を漏らす。
「いっぺんにたくさんのことが起きて、不安でいっぱいになっちゃって」
「そうね、薫子ちゃんにとっては初めての恋だものね。不安になるのも当然。でもね」
おばちゃんはそこまで言うとゆっくり立ち上がり、私の隣に腰を下ろす。
「恋愛に、不安はつきものなの。それは恋愛初心者でも何度目の恋でも一緒。相手のことが好きだからこそ生まれる気持ちで、それは自分自身で乗り越えなくちゃいけないものなのよ」
「好きだからこそ生まれる気持ち……」
相手のことを思うがゆえに起きる現象ということだろうか。だとしたら、不安は一生つきまとう? もし今回は乗り越えられたとしても、また新しい不安の種が蒔かれてしまうということ? それなら、そんな恋なんてしないほうがいい。
「人ってなんでそんな不安を抱えてまで、恋をするんだろうね」
そう言って自嘲気味に微笑めば、おばちゃんは私の身体をギュッと抱きしめた。
「お、おばちゃん?」
「薫子ちゃん、恋を諦めちゃダメ。もっと強くならなくちゃ。八木沢さんのことが大好きなんでしょ?」
突然出てきた大登さんの名前に、胸の奥がキュンと疼く。
おばちゃんの肩に頭を乗せてコクンと頷けば、背中を優しくさすってくれる。