薫子さんと主任の恋愛事情
「人の噂も七十五日ってことわざ知ってる? 不安になるのもわかるけれど、そんなうわさ話は一時的なもの。やがて自然に消えていくから、放っておけばいいのよ」
放っておく……。それができればいいんだけれど。
でもおばちゃんにそう言われて、少しだけ気持ちが楽になる。
「おばちゃんは、いっぱい恋した?」
「そうね。これでも若い頃は、モテモテだったんだから」
おばちゃんは色っぽいポーズを決めて見せると、クスクスと笑い出す。
「でもおばちゃんは、秀夫さん一筋だったから。秀夫さんも人気がある人でね。今の薫子ちゃんと同じように悩んだこともあったけれど、秀夫さんのことを嫌いになることも諦めることもしなかった」
「そうだったんだ」
目線を動かした先には、写真の中でおばちゃんの肩を抱きその隣でにっこり笑う秀夫さんがいた。
秀夫さんは三年前、病気で亡くなったと聞いている。だから会ったことはないけれど、おばちゃんから何度となく話を聞いているからか、知らない人の感じがしない。
「秀夫さん、ちょっと八木沢さんに似てると思わない?」
おばちゃんにそう言われて立ち上がり、写真に近づいてみる。
「あぁ、そう言われれば似てるかも」
目元が大登さんとそっくりで、おもわず笑みがこぼれた。