薫子さんと主任の恋愛事情
13.心を似て心に伝う
「待たせたな」
おばちゃん家の玄関を出ると、いつもの優しい笑顔で大登さんがお出迎え。頭をクシャッと撫でられると、それだけでフニャッと腰が砕けそうになる。
「八木沢さん、こんばんは」
私の後ろからヒョコッと顔を出したおばちゃんは、終始ごきげんだ。
「とし子さん、こんばんは。薫子がお世話になったみたいで、ありがとうございました」
「な~に言ってるのよ。また今度、八木沢さんも一緒に夕ご飯食べに来てね」
テンションの高いおばちゃんは大登さんの腕をバシバシ叩きながらそう言うと、彼の身体を引き下げて耳元で何かを囁いている。でもそれは私の耳にまで届かなくて、話し終えた大登さんに「おばちゃん、なんだって?」と聞いても、「なんでもない」とはぐらかせれてしまった。
「おばちゃん、大登さんに何言ったの?」
「それは、ヒ・ミ・ツ」
人差し指を一本唇に当てると、おばちゃんはおどけた顔を見せた。
ヒ・ミ・ツって……。
どんなことを囁いたのかは気になるところだけど、このままここにいても拉致があかない。ここはひとまず退散するとしよう。