薫子さんと主任の恋愛事情

悲しくなんかないのに、どうして涙が出てくるの?

大登さんの身体から離れ、ゴシゴシと涙を拭う。何度繰り返しても一向に止まらない涙に戸惑っていると、濡れている腕を大登さんに掴まれた。

「なんで泣いてる?」

泣き顔を覗きこまれて、慌てて顔を隠す。

「よく、わからないです」

「薫子の泣いてる理由、俺にはわかってるけどな」

大登さんは自信ありげにそう言うと、私の顎に手を添えて顔を無理やり上げてしまう。

「嫌だ、見ないで」

顔を伏せようとしても、簡単にはそうさせてもらえなくて。

「泣き顔も可愛いから、安心しろ」

なんて。大登さんはこっちが恥ずかしくなるようなことを言っては、私の反応を見て楽しんでいる。

薫子の泣いてる理由、俺にはわかってるけどな──

偉そうに、そんなこと言っていたけれど。なんで私にもわからないことが、大登さんにわかるというの?



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