薫子さんと主任の恋愛事情
でも今、間近にある大登さんの目は澄んでいて、嘘を言っているようには思えない。
気づくと身体の震えは治まっていて、涙も止まっている。
「無理、しなくてもいいぞ」
「無理?」
私が? 何に? 大登さんは、私が何を無理していると言いたいんだろう?
その意味がわからなくて首を傾げると、大登さんは私の頬にそっと唇を当てた。
「とし子さんに、薫子ちゃんを大人の女性にしてあげてって言われた」
「大人の女性に? それって……」
その言葉の意味を理解すると、顔に全身の血液が集まってきたかと思うぐらい急激に熱くなる。
おばちゃん、なんてことを大登さんに言ったんだろう。私のことを思ってのことだろうけれど、恥ずかしすぎる……。
「な、なんか、すみません」
ここで謝るのが正しいのかわからないけれど、そんな言葉しか浮かんでこない。
「なんで謝ってるか知らないけど」
そう言って私の頭をクシャッと撫でる、大登さんの顔は穏やかで。その顔を見ているだけで、普段の自分を取り戻す。