薫子さんと主任の恋愛事情
14.持つべきものは先輩と兄貴
人の噂も七十五日──
おばちゃんが言っていたことは本当で、大登さんと坂下さんの噂も一ヶ月もしないうちに誰も話さなくなっていた。もしかしたら麻衣さんが裏で、私の耳に入らないようにしてくれている?と思うような素振りを見せたこともあったけれど、それはそれでありがたいというか、麻衣さんの心遣いに感謝している。
その御礼というわけではないけれど、今日は麻衣さんと一緒に昼ご飯を食べることにした。
「麻衣さん、なんでも好きなもの頼んでくださいね」
「なに、薫子が奢ってくれるの?」
「はい」
と言ってもここは社員食堂で、悩んで選ぶほどメニューはないけれど。
麻衣さんは唐揚げがメインの日替り定食、私は天ぷらうどんを注文。二人分を電子マネーで支払いを済ませると、窓際の席に陣取った。
颯を麻衣さんに取り上げられてからは、いつもの“窓際一番角のテーブル”まで行くことはなくなった。最初こそ違和感のあった“颯がいない職場”も、今では慣れてきている。時々ポケットをまさぐることはあるけれど、それも回数は減ってきていた。