薫子さんと主任の恋愛事情
その生クリームあんぱんをメインに出来立てのパンをいくつか購入すると、鼻歌交じりに実家に向かう。
梅雨入りしているためか空はどんよりしているけれど、私の心は幾分晴れやかで。道の先に実家が見えてくると、自然に歩みは速くなる。
「おはようございます!」
勢い良く玄関のドアを開けると、母より先にリビングから幸四郎が飛び出してきた。
「おお、薫子おはよう。昨日教えてくれてれば、お兄ちゃんが迎えに言ったのに」
幸四郎はそう言うと、私を抱きしめようと両手を広げた。
「それ以上近づくと、絞める」
私が護身術よろしく構えると、幸四郎も同じように構えた。
「やるのか?」
「そっちがその気なら」
お互い一歩も引かず睨み合っていると、まったく温度差の違う母がリビングから顔を出した。
「あら薫子、いらっしゃい。そんなところでお兄ちゃんと仲良くしてなくても、早く上がって来なさい」
「別に、仲良くしてるわけじゃないんだけど……」
そう答えた時には、もう母の姿はなくて。構えを解くと、言われて通り部屋の中へと入った。