薫子さんと主任の恋愛事情
「お母さん、相変わらずマイペースだね」
幸四郎に近づきそう呟くと、呆れたように頷く。
「まあだから、うちの秩序が維持されてるって考え方もある」
「あ、それわかるかも」
ふたりで笑い合っていると、どさくさに紛れて幸四郎が私の肩に腕を回す。
「そういうことしてると、小麦屋の焼き立てパンあげないけど。いい?」
持っていた紙袋を、目の位置にまで上げて見せびらかす。
「なに、小麦屋だと!?」
幸四郎はそう言って私から慌てて離れると、私から紙袋を奪ってリビングへと行ってしまった。
「幸四郎が一番扱いやすいわ」
苦笑しながら私もリビングに行くと、隣のダイニングには懐かしい朝ご飯が用意されていた。
「薫子、小麦屋のパン買ってきてくれたんだって?」
「うん。でも私は、母さんが作ってくれた朝ご飯食べる。小麦屋のパンは冷めても美味しいし、後でおやつにでもしようよ」
私の言葉に納得いかないのか、ひとり幸四郎は「今食べる」とぶーたれているけれど。
「あの子は放っといていいから」
母の言葉に頷き、朝ご飯を食べ始めた。