薫子さんと主任の恋愛事情
2.二次元彼氏、奪還作戦
「西垣さん、ちょっと待ってよ」
慌てて駆け寄ってくる柴田さんのことは完全無視で、ずんずんと歩いて行く。
柴田さんは何も悪くないけれど、あなたのことを待っててあげられるほど私には余裕がないの。
今の私の頭の中は、颯のことでいっぱい。いや、いつでもどんなときでも颯のことでいっぱいだけで、今日はキャパ超えするほどいっぱい。
いくら私がどれだけ颯のことを好きでも、ここは会社。デスク周りや引き出しの中を颯一色にするわけにはいかない。だから吟味に吟味を重ねて、あの一枚のブロマイドだけを大切に持ってきていた。
『どんなときも一緒だよ、薫子』
なんて嬉しいことを言ってくれるから、そばに置いておいたというのに……。
「あの鬼畜上司め。うちの男どもより最低だ」
もう周りのことなんて見えていない。ただ前を向いて鼻息荒く歩いていたから、すぐ近くまで柴田さんが来ていることに気づいてなかった。
「っと、捕まえた。西垣さん、歩くの早いよ」
そう言っていきなり腕を掴まれた私は、無意識に彼の腕を捻り上げてしまう。
「イッてぇー」
突然耳をつんざくような大声に自分を取り戻した私は、目の前で顔をしかめている柴田さんを見て一瞬で状況を把握。
「あぁ、柴田さん、ごめんなさい。私、全然気づかなくて」
慌てて手を離すと、まだ痛そうに腕をさすっている柴田さんに近づいた。