薫子さんと主任の恋愛事情
だけど。
身体には、寒気ボロがいっぱい。慣れないことはするもんじゃないと、身体が教えてくれている。
でも私の下手な芝居も幸四郎への効果はてきめんだったようで、顔はいつの間にか穏やかなものに変わっていて機嫌も良さそうだった。
「薫子にそこまで言われたら、断るわけにはいかないよな。よし、お兄ちゃんが選んでやるとするか」
幸四郎は偉そうにそう言うと、意気揚々と歩き出す。
なんて簡単で、わかりやすい人だこと。
でもやっぱり根はいい人で、その優しさに感謝する。
「幸四郎、ありがとう」
やっぱり持つべきものは兄貴よね──そう心の中でつぶやくと、幸四郎の後を追いかけた。
そして到着したのは、大人の雰囲気ただよう革製品の店。普段なら足を踏み入れることのない場所に一歩進むとクラシカルな空間が広がっていて、まるで大正時代にタイムスリップしたような感覚に襲われる。
「素敵……」
でもなんで幸四郎が、こんなお店を知っているの?
不思議に思って顔を見れば、幸四郎が自分の持っていた鞄を私に見せている。
「ここ、勇兄が教えてくれたんだよね」
あぁ、そういうこと。うん、それなら納得。