薫子さんと主任の恋愛事情
力の限り踏ん張って大登さんに抗ってみても、ピクリとも動かない。それどころかちょっと引っ張られただけで、大登さんの腕の中にすっぽりと埋まってしまった。
「おまえな、俺が『はい、わかりました』って離すと思ってるのか? いい加減、おとなしくしろよ」
「おとなしくしろとか、大登さんに言われたくありません!」
力では敵わないけれど、ここで折れるわけにはいかない。
大登さんを見上げキッと睨みつけると、大登さんは参ったと言うように大きな溜息をついた。
「なあ薫子、おまえなにか勘違いしてるみたいだけど……」
大登さんが言いかけて、それを慌てて走ってきた坂下さんに止められる。
「大ちゃん、もしかして西垣さん……」
「ああ。姉さんのこと、彼女と勘違いしてる」
大ちゃん? 姉さん?
私の目の前で繰り広げられている展開にポカンと口を開けていると、大登さんが呆れたように私の頭をコツンと叩く。
「痛い……」
強く叩かれたわけじゃない。痛みなんて全然感じていないのに、叩かれたところをわざとらしくさすって見せた。
「まったく。ホント、薫子の想像力には敵わないな。それも“颯”効果か?」
「颯のことは言わないで……」
気持ちも落ち着いてくると、事態を理解し始める。