薫子さんと主任の恋愛事情
16.複雑な気持ち
「美味しかったぁ」
大登さんの車の中で満足気に言うと、満腹になったお腹をさする。
こっちの都合で帰してしまった幸四郎には申し訳ないけれど、肉を堪能した私はすっかり上機嫌。
「そりゃ良かったな。薫子の機嫌がなおって、俺も嬉しいよ」
運転しながら苦笑する大登さんも左腕が伸びてきて、私の髪をクシャッと撫でる。
不安に思っていたことがなくなり、大登さんから受けるスキンシップが素直に嬉しい。大登さんの誕生日前にモヤモヤしていたものがスッキリして、明日は気持ちよくお祝いできそうだ。
後部座席には、大登さんのために用意したプレゼントがある。私は気に入ったけれど、大登さんも喜んでくれると嬉しい。
それもこれも、明日になればわかること。ひと晩すぎれば……
うん? ひと晩?
「あ……」
お昼ご飯を食べる前に大登さんに言われた『今晩は薫子を食べるから、そのつもりでいろよ』を思い出し、緊張が身体中を駆け巡る。
「なんだよ、あ……って」
大登さんに怪訝な顔で聞かれ、とっさに口から出たのは、
「あ、アイスクリーム!」
「アイスクリーム?」
「そう。アイスクリーム食べたいと思って」
「肉たらふく食っといて、まだ食べるのかよ」
少々呆れ気味にそう言われて、我ながらアホな返事だったと後悔。
デザートは別腹なんて言うけれど、今の私の身体の中はどこを探しても隙間なし。