薫子さんと主任の恋愛事情

「あれ? 俺なにか、気に障ることでも言った?」

「え? あ、いえ、なんにも」

柴田さんの突然ぐっと近づけた顔に、一瞬動揺。

だって私の大好きな乙女ゲーム、颯も出ている『恋の相手は大富豪!』の末っ子で可愛いキャラで人気のアキラに似てたから。

『薫子、アキラに動揺するなんて、僕一筋じゃなかったの?』

そ、そうよ! 私の心の中は、颯で埋め尽くされてるわよ!

でもね。乙女ゲーム全般、もっと言えばアニメやコミック、二次元の世界が大好きな私としては、いろんなキャラの情報がインプットされているわけで。

だから颯、心配しないで。私の身も心は、あなただけのもの……。

「言っちゃった」

「西垣さん? 何ブツブツ言ってるの? 颯って、さっきの……」

「うわっ!!」

そ、そうだ。柴田さん、いたんだった。二次元の世界にタイムスリップしてて、柴田さんの存在をすっかり忘れていた。

しかも颯との会話を、表に出していたなんて。失敗した……。

でももうこうなったら、秘密にしていても仕方がない。

「柴田さん、すみません。今は颯を取り戻すことが先決なので、ここで失礼します」

そう言って頭を下げると、柴田さんが何か言おうとするのもスルーして走りだした。



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