薫子さんと主任の恋愛事情
そんな彼に恋を抱き始めて早二年。
颯は生身の人間と違って私を裏切らないし、いつまでも愛し続けてくれる。時々冷たい態度をとられることもあるけれど、それだって愛情の裏返し。私のことを思ってのことだから、嫌いになんてなれるはずがない。
でも唯一、私が颯に恋をしていることを知っている麻衣さんは『そんな男はどこにもいないのよ。もっと現実を見なさい』と、容赦無い指摘をしてくれる。
二十二歳にもなった女が二次元の男性に恋するなんて、イタいことぐらいわかっている。でも誰に迷惑を掛けているわけじゃないし、今さら現実の男なんてまっぴらごめんだ。
「また後でね」
誰にもわからないように呟くと、名残惜しい気持ちを押し殺して引き出しをそっと閉める。丸めていた背中を伸ばすように背伸びをすると、溜まっている仕事に手を伸ばした。
西垣薫子(にしがきかおるこ)、二十二歳。もちろん独身。
身長一五八、体重五〇、どこから見てもいたって普通。顔も特にブスとかイジられたこともないからこちらも普通……と言っても中の下、地味なんだと思うけれど。髪型や服装もこれまた地味だから、一度もモテ期ってやつを経験したことがない。
短大を卒業し、この『渋谷製麺』に入社して二年。入社当初から経理全般を任されていて、そつなく仕事をこなしている。