薫子さんと主任の恋愛事情
タイムオーバー。
午後の始業を知らせるベルが鳴り、事務所のドアに手を掛けたところでガックリ項垂れた。
でもまあこんなこと、ドラマなんかでよくあるパターン。いきなり八木沢主任のデスクに乗り込むのは難しくなったけど、これでチャンスが無くなったわけじゃない。自分のデスクに着いたら次の手を考えないと。
でもまずは仕事。
顔を上げ普段通りにドアを開ける。普段ならそのまま自分のデスクまですんなり行けるのに、今日は八木沢主任がドンと立っていて面食らってしまう。
「遅いぞ、西垣」
「す、すみません」
みんながいる手前、一応謝っておく。
何が『遅いぞ、西垣』だ。その原因を作ったのが自分だって、わかってるのかしら。ここが会社内じゃなかったら、平手打ちを一発お見舞いしたいくらいだ。
でもいかんせん、ここは会社内。そんなことできるわけもなくて諦めると、席まで行こうとしてそれを阻まれてしまう。
八木沢主任は自分の身体でみんなから見えないように私を抱き寄せると、私の耳元に顔を寄せた。
「西垣の大事な彼氏、二段目の引き出しに戻しておいたから。今晩の約束、忘れるなよ」
吐息混じりにそう囁くと、八木沢主任の唇は耳朶を掠め離れていった。