薫子さんと主任の恋愛事情
「指に、はめてみますか?」
「でも……」
「遠慮しないで、そうさせてもらえ」
大登さんにそう言われ、左手の薬指にリングをはめてみる。それは一瞬で私を特別な世界に運んでくれて、まさに“お姫様”にでもなった気分だ。
「素敵」
私の自然と出た言葉に大登さんは微笑むと、リングをはめた左手をふわりと包み込んだ。その仕草は、まるでお姫様の手を取る王子のようで赤面してしまう。
「どうする? それにするか?」
「うん……」
「すごく似合ってるけどな」
大登さんにそんなこと言われたら、迷う必要はない。それに第一印象は大切だ。可愛らしいデザインに目を奪われてしまい、このリング意外は眼中になかった。
でもこんな高価なもの買ってもらっていいんだろか……と、値段を見て絶句。身体が震えだし、血の気が引いていく。
「大登さん、これ……」
値札を指差すと、大登さんは「ああ」と言って何食わぬ顔。
「そんなこと気にするな。おまえより金は持ってる」
それは間違いなくそうだけど、だからってそんな自信満々に言わなくても。呆れて溜息をつくと、店員に笑われてしまう。
「どうなさいますか?」
私の目を見て、どうなさいますか?と言われても……。