薫子さんと主任の恋愛事情
危険を察知した脳が、すぐに逃げろと私に命令をする。わかったと言わんばかりに立ち上がりその場を離れようとする私の右手を、大登さんの大きな手が掴み取った。
「確保。俺から逃げられると思うなよ」
「そ、そんなこと思ってませんっ。だから離して下さい」
「それはできないな。だって薫子、優しくして下さいって言ったじゃないか」
掴んでいる腕を引き私の身体をいとも簡単に抱きしめると、耳元で艶やかに囁いた。
「あ、おばちゃん用事を思い出したから、ちょっと出かけてくるわね。あとはふたりで」
ムフ、ムフフフフ……と変な笑い声を残し、おばちゃんは部屋から出ていった。
「あれ? とし子さん、どうしたのかな」
大登さんは白々しくそう言うと、私をゆっくり横たわらせる。
「さてと。ふたりっきりになったことだし、優しくしてやるとするか」
妖しく光る眼に、ゴクリと生唾を飲む。
「な、なにか勘違いしてると思うんですけど……」
「勘違い? 何を勘違いしてるって言うんだ。言ってみろよ」
「だからそれは、叩かないで下さいってことで。今から大登さんがやろうとしていることとは違うというか……」
「俺が何をしようと思ってるんだよ?」
「それは……」