薫子さんと主任の恋愛事情

さすが、麻衣さん。ありがとうございます。落ち着いたら、話聞いてくださいね。

心の中でそう言うと、右に傾けていた頭を左に動かした。

ドアのところには、もう八木沢主任の姿はない。この時間だと、きっと工場長のところにでも行ったんだろう。

「勝手な人……」

まさかあんな人だったなんて、全然知らなかった。

八木沢主任といえば社員やパートのおばちゃんたちからの人望も厚く、自分には厳しく他人には優しい人気者。冗談を飛ばしたてみんなを笑わしたり、誰かが落ち込んでいたりすると飲みに誘っては話を聞いて励ましたり。

でも会社の中での顔しか知らないから実のところどんな人なんだろうと思っても、渋谷製麺に入社した頃にはもう私のそばには颯がいた。だからそれ以上八木沢主任について興味を抱くことはなかったけれど。

今日の八木沢主任は、出会った頃の颯に似てたりしたから、少々困惑気味。

今でこそ(攻略終盤、両思いになってからの颯)は一人称が“僕“の王子様キャラだけど、最初の頃はかなり手こずった。

五人兄弟の次男の颯はいつも長男の暉(ひかる)さんと比べられていて、御曹司だというのにちょっと荒れた生活を送っていた。だから私(主人公)が暉さんと仲良くしていたりすると、私(主人公)のことなんてまるで関心がなかったのに、ひねくれ者の颯は影で私をいじめたりからかったり。勝手気ままに私(主人公)をお屋敷から連れ出しては、迷惑かけ放題。



< 22 / 214 >

この作品をシェア

pagetop