薫子さんと主任の恋愛事情
「あ……」
何やってるの、私。
八木沢主任から少しだけ身体を離すと、案の定上着の胸のあたりに鼻水の染み。
やっちゃった……。
これは私の小さい頃からの癖。男兄弟の末っ子で育った私は兄たちに可愛がってもらった反面、いじめらられることもしばしば。女は私一人だから、悲しいことがあると母のもとに行きよく泣いていた。その時いつも鼻水ダラダラで、母のエプロンで拭っていたのを今でも覚えている。
今私を泣かせているのは八木沢主任だけど、だからって上着を汚すのは良くない。
「すみません。汚してしまいました」
鞄からハンカチを取ろうと八木沢主任から離れようとしても、それを許してもらえなくて。
「いいよ、気にするな。こんなのクリーニングに出せば済むことだ。それより今は、西垣とこうしていることのほうが重要だからな」
と私の思考回路が停まってしまいそうな言葉をサラッと言うから、困惑してしまう。
「八木沢主任」
「なんだ?」
「これって何かの罰でしょか? 仕事でミスをしたのなら、ちゃんと言ってください」
八木沢主任の胸に顔を埋めたまま、鼻声で聞いてみる。