薫子さんと主任の恋愛事情
乙女ゲームの中で、車内というのはよくあるシチュエーション。密室で二人の距離が近ければ、ドキドキ感も増すというもの。新しい展開に入っていくのもこのあたりからというのも加わって、慎重に進めていくシーン。
でも今はゲームの最中じゃない。これは現実、リアルな話。ゲームとか勝手が違い、どう攻略すればいいのか分からない。
……って、八木沢主任を攻略してどうするのよ。
自分の考えていることに呆れてしまう。
「西垣? おい、薫子!」
「は、はい!」
ひとりボーっと考え事をしていて、目の前に八木沢主任がいることを一瞬忘れてしまっていた。
名前を呼ばれ八木沢主任の顔をまじまじと見つめると、その口がニンマリ弧を描く。
「薫子。いい名前だよな」
あ、今、薫子って呼んだ。と言うかさっきも私、薫子って呼ばれたような。だからおもいっきり『はい!』なんて返事したけれど。
「もう勘弁してもらえませんか? 付き合えって言ったり抱きしめたり、どさくさに紛れて……キスしたりして、からかうにも程がありますよ」
「からかってない」
「じゃあ、今のこの状態は?」
「西垣のことが好きだからだな」
「は?」