薫子さんと主任の恋愛事情
八木沢主任が、私のことを好き? 好きって言った? 聞き間違いじゃない?
人差し指を出して自分のことを指すと、「私が好き?」と聞いてみる。
「ああ、俺は西垣薫子のことが好きだ」
と今度はハッキリ、その言葉が耳に届く。
「いつから?」
「結構前から」
「結構前って。どうして私なんですか?」
「聞きたいか?」
八木沢主任はそう言ってゆっくり近づいてくると、あと数センチのところまで顔を寄せた。
またキスされる?と驚いて慌てて自分の口を押さえると、八木沢主任は苦笑してみせる。
「さっきは悪かった。今はしないから安心しろ。それより今日も仕事頑張ったからな腹減った、何か食いに行くぞ。話はその時だ」
私が喋れないことをいいことに一人で話を進めると、八木沢主任は車を発進させた。
どこに向かっているのだろう。普段は家と会社の往復がほとんどの私は、会社のあるこの町のことをあまり知らない。
窓の外の風景を見ながら、さっきの八木沢主任の言葉を頭の中で繰り返す。
俺は西垣薫子のことが好きだ──
全く予想もしていなかった展開に、どうしていいのかわからない。ポケットの中に手を突っ込むと、颯のブロマイドを探す。それが手に当たると、ちょっとだけ気持ちが落ち着いた。