薫子さんと主任の恋愛事情
交差点で車を停めていた八木沢主任が、なぜだか怒ったような顔で私を見ている。
車が動き出してから十分足らずしか経っていないけれど、その間に私は何か八木沢主任が怒るようなことをしたというの?
思い当たるフシが……ない。
な、なんですか?と言わんばかりに、首を傾げてみる。
「薫子の右手ってポケットの中に入ってるけど、そこに颯はいるのか?」
「え、えっと……」
颯がいることをズバリ当てられたことも驚きだけど、いつの間にか薫子呼ばわりなことにもっと驚く。
「な、なんで薫子って呼ぶんですか?」
「西垣の名前が薫子だからだな。って話をはぐらかすな! 颯はいるのかって聞いてんだ」
「はぐらかしたつもりはないですけど……」
しわくちゃになるのも気にせず、ブロマイドを握りしめる。
八木沢主任は私の二次元好きを知っていたわけだし、そんな当たり前のこと聞いてどうするの。颯は肌身離さず。
誰がなんと言ったって、私が好きなのは颯だけ。なのに八木沢主任の言葉に動揺してしまう私って、今日はちょっとおかしいみたい。
告白されたから? でもあれって本気なの?
生まれてから一回も実世界の男の人に告白なんてされたことがないから、それが一体どういうものなのかよく分からない。