薫子さんと主任の恋愛事情

そう言う八木沢主任の顔は真剣そのもので。

「俺のものにならないかって、それちょっと意味がわかりません」

と注がれたビールを一気に飲み干すと、八木沢主任の言葉をはぐらかす。

「おい、薫子。そんな一気飲みして大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。お酒、強いですから」

そんなの大嘘。お酒は、たしなむ程度しか飲んだことがない。自分がどれくらい飲めるかはわからないけれど、今は飲んで酔ってしまえば今日起こったことはすべて夢で片付く?なんて、安易な考えが頭の中をぐるぐるしている。

「まあ酔っ払っても、俺がいるから大丈夫か」

八木沢主任の言葉に、これはやっぱり夢で終わりそうもないと肩を落とす。

「あの、八木沢主任はいつから私のことが好きだったんですか?」

こんな質問をするのは上から目線的でおこがましいけれど、これは重要なこと。結構前なんて言っていたけれど、そんな素振り一度だって見たことない。

「薫子が入社して二ヶ月くらい経った頃だったか、仕事を覚えようと必死なのに時々ふっと微笑む姿を見かけてさ。
それがどうしてか不思議で、気づいたら薫子ばっかり目で追ってて好きになってた。社内ストーカーってやつだ」

八木沢主任はそう言うと、少し照れたように頭を掻いた。

自分で自分のことをストーカーって……。でもあまりにも爽やかに言うもんだから、こっちまで照れてしまう。



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