薫子さんと主任の恋愛事情
「すぐにでも告白して……なんて思ったりもしたけどな。まだ入社して間もない薫子に手を出すなんて大人げないし、たまたま開いていたデスクの引き出しを見たら、薫子が微笑んでる相手はアニメのキャラクターだったし」
「な、なに勝手に見てるんですかっ!」
「だから開いてたんだよ。でも相手がコイツなら勝てるって、心の中でガッツポーズしたぞ」
そう言ってこの場でもガッツポーズする八木沢主任を見ていると、怒る気力も失せていく。
「八木沢主任って変わってますね」
「変わってて結構。薫子だって変わってるし、似た者同士付き合ってみないか?」
変わってるのは私も同じか。言われてみれば、その通りだ。
でもだからって付き合うとか、それはちょっと違うような気が。
八木沢主任は私のことが好きでも、私はまだ八木沢主任がどういう人かもよくわからない。それに……。
「私は颯がいるので、お付き合いはちょっと……」
この期に及んでまだそんなことを……と思われたって構わない。紛れも無い事実だし、これだけはどうしてもやめられない私の唯一の楽しみなのだから。
「今さら颯と別れろなんて、そんな野暮なことは言わないよ。颯がいてもいい、俺と付き合ってほしい」
八木沢主任はそう言うと右腕を伸ばし、私の左の頬を優しく包み込む。
「ま、颯に負ける気はしないけど。なあ薫子、わかったって言えよ」
八木沢主任の瞳が私を捕らえると、その目力の強さに心を揺さぶられる。